
Nosotros ノスオトゥロス
Artist
Suzuki Sachi
すずき さち
そもそもキューバへのきっかけというのは、小学校のころに聴いたカセットテープに、グアンタナメラや、デイブ・グルーベックのテイクファイブが入っていて、思えばそれがジャズにしても、キューバにしても、はじめの一歩だったかもしれません。90年代初頭に、たまたま私の職場の近くで演奏のために来日していたキューバ人達がいたのですが、その中の一人と親しくなり、翌年、その人のキューバの家を訪れました。運良く会うことは出来ましたが、ちょうど、二日後にメキシコへ演奏に行くところでした。残念でしたが、滞在中はその友人がキヤノンのAE-1という一眼レフを貸してくれました。その時、その友人は離婚してまして、息子とは学校の送り迎えの時しか接する事が出来なかったんです。で、その時の父子の瞬間を写真に収めたら、とても叙情の深い一枚が撮れました。その一枚が中南米の写真を撮り続けるきっかけになったと思います。 帰国してから半年もしないうちに、その友人がアメリカから手紙を送って来て、実はメキシコ演奏の後、そのまま亡命したと書いてありました。だから、あの時に会えたのは、まさに亡命直前の微妙なタイミングだったようです。その時の彼は四二、三歳で最後の賭けに出たのでしょう。亡命先に電話したら、彼はその頃早くもホームシックになってて、帰国したい、家族が恋しいとずっと言っていました。その時に、私が前回撮影した息子と一緒に写っている写真がどうしても欲しいと頼まれたのです。 その時に、写真は見る人によって、ものすごい意味が出来るって事を、実感しました。私にとってはキューバの記録という程度だったんですけど、その写真に写っている人達にとっては、それがかけがえのない物になるという価値の違いに気付きました。今と違って、郵便物が届かない事も、中南米では多かったですし。また、当時は物資が少なかったので、プリントしたくても紙がない、フィルムも売ってないと、カメラ自体があっても、写真に至るまでのプロセスが必ず欠けていました。だから写真一枚の価値は、そのころのキューバではまだ大きかったんです。 その後、友人の亡命先での暮らしを見に行きました。すると彼から、仕事も得て無事にやってるよ、演奏しているよ、という写真を撮影して、キューバの家族に届けてくれないかと頼まれました。なので、彼の演奏風景を撮影し、それをキューバの家族へ届けました。他にも彼の仲間で亡命した人達から様々な物を託され、持って行きました。すると、それを家族へ手渡した時、皆すごく喜んでくれたんです。日本では非日常である亡命という言葉が、キューバでは日常的に出て来るんですが、それからは亡命のある日常ってなんだ?という目線から国の情勢や、自分との関わりを考えるようになりました。 もちろん撮られたい人ばかりではなく、撮って欲しい顔をしつつ、もじもじしている人もいます。そういう人に声をかけた時、やった俺、これで外国へ行けるんだ!って言った人がいて、その言葉がとても印象的でした。カメラに入って俺は外国へ行くんだ、行けたんだって。もう彼の願いはそこで少し完了したわけです。写真を送ってくれとかは言わない。自分という存在をカメラの中に入れ、この国から持ち出してもらえる事で、十分満足なのだと。渡航が自由な国の我々はそうは思わないですよね。だから私、カメラを使ってキューバの人達を沢山日本に連れて行ってます。その時以来、写真を撮って欲しそうな人を見たら、みんなこのカメラに入ってちょっと日本へ行こうぜって!言ってますよ。それを言ったのは若い人だったんですけれども、彼らの中でも外国に渡航出来そうな人、そういう可能性が全くない人、という格差があります。誰かがアメリカ等で成功して、呼びよせてもらえる人はいいけど、そうじゃない人もいて、そんな彼らはカメラに入りたがっていました。最初は亡命した友人と家族の間だけでの写真の物語でしたが、次々と、場当たり的に出会った人々をカメラに取り込み、様々な物語が広がっていきました。

帝京大学文学部国文学科卒業。
10代後半より雑誌「鳩よ!」「月刊カドカワ」等に 散文、書評、インタビュー記事を執筆。 同時期にNHKFM ・サウンドストリート(火曜日・ 坂本龍一)のテーマ曲名募集に参加し採用され、名付 け親となる。 大学卒業後、出版社勤務の傍ら20代後半より中南米、 欧州へ通い撮影を始める。
1998年より現在まで「中南米マガジン」スタッフとして撮影、取材、文章・イラスト執筆を続けている。 ハバナの中華街(バリオ・チノ)やキューバの乗り物 (特に改造自転車)、古書店業界や露店の甘過ぎる菓子類に至るまで、現地の「ふつう」の謎を追い求める。 2006年1月に「中南米マガジン」についてのテーマにて 「タモリ倶楽部」に出演 2009年より都内〜東北地方でキューバ、ハバナを中心 とした写真展を開催。
2017年
「ラテンアメリカ探訪アート展 Nosotros1」
「ラテンアメリカ探訪アート展 Nosotros1 トークショー」
2018年
「ラテンアメリカ探訪アート展 Nosotros2」
「ラテンアメリカ探訪アート展 Nosotros2 図録」
2019年
「ラテンアメリカ探訪公募展 Nosotros3」
2021年
「ラテンアメリカ探訪アート展 Nosotros4」
2022年
「ラテンアメリカ探訪アート展 Nosotros5 SOL」
「ラテンアメリカ探訪アート展 Nosotros5 LUNA」
2023年
「ラテンアメリカ探訪アート展 Nosotros6 ラテンアメリカの壁」
2024年
「ラテンアメリカ探訪アート展 Nosotros7」
2025年
「ラテンアメリカ探訪アート展 Nosotros8」